GLOSSARY

用語集

1 免疫療法

免疫を強化してがん細胞にダメージを与える方法ですが、とくに本庶佑博士らが発見してノーベル賞につながった方法が有名です。これは、免疫を抑制する、PD-1と命名されたレセプターに蓋をして、自身の免疫力をあげることにより、がんに対抗する療法で、蓋の役割を担うたんぱく質として、本庶博士らはニボルマムを発見しました。このニボルマムは、2014年に小野薬品工業からオプジーボという商品名で発売が開始されました。

2 光免疫療法

米NIHの国立がん研究所(NCI)主任研究員の小林久隆博士らによって発明されたがん治療の方法で、楽天(三木谷浩史会長兼社長)がNIHからライセンス供与を受け、独占的に製造販売しています。「トロイの木馬」としてセツキシマブ(EGFR抗体)を用い、「武器」として光感受性物質IRDye® 700DXを用います。

3 ホウ素中性子捕捉療法(BNCT, Boron Neutron Capture Therapy)

中性子を照射し、がん組織に取り込まれた質量数10のホウ素との核反応によって発生するアルファ線とリチウム線によって、選択的にがん細胞にダメージを与えるがん治療法です。質量数10のホウ素が、高い中性子捕獲断面積(中性子捕捉能力)をもつことを利用して、1936年に米国で提唱され、日本では主として京都大学の原子炉で臨床研究がなされました。2012年、ステラファーマと住友重機械工業は京都大学原子炉実験所と連携して、世界初の加速器中性子源による治験を開始し、2016年、福島県の一般財団法人脳神経疾患研究所は南東北BNCT研究センターを設立し、住友重機械工業株式会社製の加速器BNCTシステムを用いて、脳腫瘍や頭頸部がんに対する治験を始めました。2020年、「切除不能な局所進行または局所再発の頭頸部がん」に対するBNCTの保険適用が開始しました。「トロイの木馬」はフェニルアラニンが良く用いられ、「武器」は質量数10のホウ素原子です。2021年4月に、ステラファーマはマザーズに上場しました。

4 トロイの木馬

ギリシア神話のトロイア戦争において、トロイアを陥落させるためにギリシア人が用いた装置のことです。木製で中に兵士が隠れることができるようになっていました。ウェルギリウスの『アエネーイス』によれば、10年に及ぶ包囲戦の末、オデュッセウスの命を受けたギリシア人が巨大な木馬を作り、オデュッセウス自身を含む隊員を中に隠してトロイアの町に引き入れたとされています。ここでは、「トロイの木馬」は比喩的に、「武器」をひそかにターゲットに引き入れる戦略を意味します。

5 グルコース・トランスポーター

ブドウ糖(専門用語でD-グルコースと言います)は、生物の最も基本的なエネルギー源・炭素源で、ほぼ全ての生物はD-グルコースを細胞内に取り込み、利用します。D-グルコースが哺乳動物細胞内に取り込まれる際には、脂質二重膜でできた細胞膜を通過する必要があります。しかし、そこそこ大きな形を持ち、かつ水溶性分子であるD-グルコースは、細胞膜を自由に通過できません。これを可能にするのがグルコーストランスポーターと呼ばれる、細胞膜を貫ぬくように存在するタンパク分子で、哺乳動物細胞のグルコーストランスポーターの代表はGLUTファミリーです。GLUTにはD-グルコースを結合する部位(サイト)があり、細胞膜の外側にあるD-グルコースは、まずこの結合サイトに結合します。するとGLUTが構造変化をおこし、細胞膜の外側に開いた構造から、細胞膜の内側に開いた構造となります。するとD-グルコースはもはや細胞膜の外側にでられなくなり、結合サイトからD-グルコースが解離する際には、細胞膜の内側へとはずれていくことになります。このように、D-グルコースが細胞外から細胞内に輸送されるプロセスにおいては、糖が結合サイトに適合する形状をもつことが極めて重要になります。D-グルコースを鏡に写した構造を持つL-グルコースは、この結合サイトに適合できないため、GLUTを通過できず、従って哺乳動物細胞内には取り込まれないと長年考えられ、教科書にもそのように書かれてきました。

6 チャネル様タンパク(Channel-Like Protein)

チャネルは膜貫通タンパクの一種で、ナトリウムイオンチャネルやカリウムイオンチャネルなどのイオンチャネルが代表例です。チャネルとトランスポーターの違いは、一般の生命科学研究者でもうまく説明できない場合が少なくないと思います。トランスポーターは、膜輸送タンパクに基質(膜輸送タンパクがグルコーストランスポーターであれば、基質はD-グルコース)が結合すると、細胞膜の外側にトランスポーター内の開口部と基質結合サイトを向けた状態から、細胞膜の内側に開口部と基質結合サイトを向けた状態に構造変化をおこします。その結果、開口部に細胞膜の外側から侵入し、結合サイトに結合した基質が、ついでタンパクから離れるときは、細胞膜の内側に離れてゆきます。結果として、細胞膜の外から中に基質が輸送されます。この方式は膜輸送タンパクの大きな構造変化を伴い、また一回に1個かせいぜい2個の基質しか輸送できないため、輸送に時間がかかります。これは船の座席に例えることができます。座席(すなわち結合サイト)が埋まっていれば、基質は座席があくまで船に乗れず、細胞外で待っていなければなりません。これに対して、チャネルは基質結合サイトを持たず、その代わり基質と相互作用するゲートと呼ばれる機構を持ち、トランスポーターよりはるかに高速に基質を輸送できるタンパクです。チャネル様タンパクという言葉は、チャネルに似た輸送様式をとるタンパクを意味しています。